任意後見制度
成年後見制度は、法定後見制度と任意後見制度から成ります。「後見」という場合、通常は家庭裁判所が誰を後見人にするか選定する「法定後見」を指しますが、近時は将来の後見人を自分で選定する「任意後見」の利用が増えてきています。
今回は、任意後見制度についてご説明いたします。
〇 任意後見制度とは
任意後見制度は、将来ご自身の判断能力が低下したときに備えて、あらかじめ信頼できる人に後見人を依頼しておく制度です。法定後見制度が、すでに判断能力が低下し、支援が必要な方について利用されるものであるのに対し、任意後見制度は、将来発生するであろう課題について事前に備えておく制度といえます。
令和4年に締結された任意後見契約は1万4,463件です。同じ年に法定後見が開始された件数が2万6,529件ですから、新規の法定後見の半数程度の件数について新たに任意後見契約が締結されていることが分かります。
〇 任意後見制度の利用方法
任意後見制度は、任意後見を依頼する「委任者」と、将来後見人になることを引き受ける「任意後見受任者」(将来の「任意後見人」)との間で任意後見契約を締結するものです。任意後見契約は公正証書で作成する必要があります。
任意後見契約締結後、委任者の判断能力が低下し、自分で財産管理をすることが困難になった場合、任意後見受任者等は家庭裁判所に申し立てをします。すると、家庭裁判所が任意後見人を監督する任意後見監督人を選任し、任意後見の効力が発生することになります。任意後見の効力が発生するというのは、任意後見受任者が任意後見人として活動を開始し、ご本人(委任者)のための財産管理・身上保護に関する事務を行うということです。
〇 任意後見制度の特徴
法定後見制度と比較した場合、任意後見制度には次のような特徴があります。
1点目として、将来の後見人を予め選ぶことができるという点です。法定後見の場合、後見人の選任は裁判所の専権事項となっているため、自由に後見人を選ぶことはできません。これに対し、任意後見では、ご本人(委任者)に判断能力があるうちに将来の後見人を決めておくことが可能です。
2点目として、1点目の裏返しともいえますが、任意後見を利用できるのは、任意後見契約締結時点においてご本人に判断能力がある場合に限られます。そのため、障害のあるお子様のために任意後見を利用できるのは、お子様自身に判断能力があり、お子様自身が契約を締結できる場合ということになります。もっとも、例外的に、お子様が未成年の間は、親権者であるご両親がお子様を代理して任意後見契約を締結できるといわれています(ただ、その必要性については十分吟味してください)。
3点目として、任意後見を利用する場合は、必ず任意後見監督人が選任されるという点です。法定後見は家庭裁判所が後見人を直接監督しますが、任意後見の場合は、任意後見監督人が後見人を直接監督し、家庭裁判所は任意後見監督人を通じて後見人を監督するという仕組みとなっています。任意後見監督人は家庭裁判所が選定し、弁護士などの専門職が選ばれています。専門職である任意後見監督人に対しては報酬が発生します。仮に、任意後見人が専門職だとすると、任意後見人と任意後見監督人の2名分の報酬が必要となります。
4点目として、任意後見の事務がスタートするのは、あくまでも任意後見の効力が発生してからということです。先ほど、任意後見契約の締結件数が1万4,463件とご紹介しましたが、実は、同じ年の任意後見の発効件数は749件にとどまっており、契約を締結したもののそのままになっているケースが非常に多いといわれています。任意後見の効力が生じないと、後見人の監督が機能しませんから、適切な時期に任意後見契約を発効させることが重要です。
執筆者プロフィール
弁護士 杉山 苑子