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民事信託と後見制度の比較

2022.12.01

コラム

民事信託と後見制度の比較

民事信託は信頼できる人に自己の財産の管理を託し、また、ご自身が亡くなった場合には、予め財産の承継先を決めておくことのできる制度です。民事信託と似た制度として、「後見制度」があります。後見制度は第三者である後見人に自己の財産を管理してもらう制度です。

そこで、今回は、民事信託と後見制度を比較してみましょう。

 

〇 名義の違い

民事信託を利用すると、託した財産の名義は受託者に移ります。例えば、Sさんが委託者、Tさんが受託者となる場合で、Sさんがご自身の不動産と現金を信託した場合、不動産の名義はSさんからTさんに移り、現金については、Tさん名義の預金口座などで管理することになります。信託した財産は、Sさんのものではなくなるということです。もっとも、Tさんは自分のために信託財産を使うのではなく、受益者(通常はSさん)のために使います。

これに対し、後見制度を利用した場合、財産の名義は変わりません。Sさん名義の財産について、後見人となったTさんが代理人届などを提出することで管理することになります。

 

〇 開始時期の違い

民事信託の場合、通常は、信託契約を締結したときから受託者であるTさんが信託財産の管理を始めます。委託者であるSさんがお元気であるうちから管理者を変更することになるため、Tさんの管理状況を監督することが可能です。

これに対し、後見制度が開始されるのは、Sさんの判断能力が低下した後ということになります。判断能力が低下するまでは、Sさん自身が財産を管理し、判断能力が低下した後に後見人であるTさんに管理を委ねることになります。

 

〇 管理する財産の違い

民事信託の場合、一般的にすべての財産を信託するということはありません。その理由は、まず、そもそも信託できない財産があるからです。例えば年金はご本人だけが受け取れるものであり、年金受給権を第三者に譲渡することは禁止されていますので、年金を信託することはできません。また、民事信託は元気なときに利用を始める制度ですから、真に受託者に管理を委ねたい財産だけを選んで信託をすることも可能です。将来の施設入所に備えて、自宅の売却に困らないよう、自宅だけを信託するという使われ方もしています。

これに対し、後見制度は判断能力が低下した後に利用される制度ということもあり、管理する財産はご本人の財産全般に渡ることが一般的です。

 

〇 管理する人の違い

民事信託の場合、信頼できるご家族が受託者となることが一般的です。弁護士などの専門家は、法律上の制限があるため受託者となることはできないとされています。ご家族の中に受託者となることのできる人がいない場合は、信託銀行などが提供している信託商品の利用を検討することになります。

これに対し、後見制度の場合は、ご家族が後見人になることもあれば、弁護士などの専門家がなることも可能です。この点では、後見制度の方が利用できる場面が多いといえます。

 

〇 財産の承継先を指定できるかの違い

民事信託では、委託者であるSさんが死亡して信託が終了したとすると、残った財産は、あらかじめ信託契約で定めた条項に従って財産を承継させることができます。遺言と同様の機能をもたせることができるのです。さらに、遺言の機能を超えて、信託によって利益を受ける人を順次変更させることも可能です。例えば、Sさん死亡後は、子どもであるBさんが受益者となって生活費の給付を受け、Bさんの死亡によって信託が終了し、残った財産をSさんが望む寄付先に交付することも可能となります。

これに対し、後見制度の場合は、ご本人であるSさんの生前の財産管理のための制度ですから、Sさんが亡くなった時点で後見は終了し、通常の遺産分割手続きが必要となります。

 

執筆者プロフィール

弁護士 杉山 苑子

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