公正証書のデジタル化
公正証書遺言を作成したり、任意後見契約を締結したりする場合には、公証役場で公正証書を作成する必要があります。現在、公正証書を作成するにあたっては対面・書面での手続きが必須となっていますが、来年中にはデジタル化が図られる予定です。
〇 公正証書とは
公正証書とは、法律行為その他の私権に関する事実について公証人が作成する証書のことをいいます。遺言や任意後見契約書のほか、金銭消費貸借契約書、売買契約書、賃貸借契約書などビジネス目的でも公正証書で作成されることがあります。
公正証書の特徴として、公文書として高い証明力がある、原本を公正・中立な第三者機関が保管する、裁判所で強制執行を行うことができる効力(執行力)が付与される(金銭支払等を目的とし、債務者が直ちに強制執行に服する旨の陳述がされた場合)が挙げられ、私的紛争の防止や、私的な法律関係の明確化・安定化に資するとされています。
〇 デジタル化の概要
公正証書に係る一連の手続のデジタル化を図るためとして、公証役場に出頭をせずにウェブ会議・電子署名を利用して公正証書を作成することや、証明書 を電子データで受領することが可能となります。具体的な内容は次のとおりです。
① 嘱託(申請)
現行では、公正証書の作成依頼(嘱託)は、公証役場に出頭して行う必要があり、また、作成にあたっては印鑑証明書等の書面の提出が必要とされていました。これに対し、デジタル化が実現すると、公正証書の作成依頼(嘱託)は、インターネットを利用して、電子署名を付して行うことが可能になります。
② 嘱託人の陳述、内容確認等
現行では、公正証書の作成には、公証人が対面で依頼者(嘱託人)の陳述聴 取、真意確認、内容の正確性の確認等を行うことが必要とされていました。
これに対し、デジタル化が実現すると、依頼者(嘱託人)が希望し、かつ、公証人が相当と認めるときは、ウェブ会議を利用して行うことを選択できるようになります。
③ 公正証書(原本)の作成・保存
現行では、公正証書原本を書面で作成・保存するとされ、また、依頼者(嘱託人)・公証人の署名・押印が必要とされています。これに対し、デジタル化が実現すると、公正証書の原本は、原則として、電子データでの作成・保存することになります。
④ 証明書(正本・謄抄本)の交付
現行では、公正証書に関する証明書(正本・謄抄本)は、書面で交付しています。これに対し、デジタル化が実現すると、書面での交付か電子データでの受領かが選択可能となります。
〇 遺言等をウェブ会議で作成できるか
前述②のとおり、これまで公証人の面前で行っていた手続きが、一定の範囲でウェブ会議を利用して行うことができるようになります。では、遺言や任意後見契約書もウェブ会議によって作成できるようになるのでしょうか。
ウェブ会議が利用できるのは、依頼者(嘱託人)が希望し、かつ、公証人が相当と認めるときです。どのような場合に相当性が認められるのかについては、例えば、ビジネス目的で利用される公正証書であり、現在でも代理人によって嘱託が可能なものについては、ウェブ会議の利用を広く認めてよいのではないかとの意見がみられます。他方で、遺言公正証書は、現行法下において代理人による嘱託は認められていませんし、任意後見契約書についても、運用上、公証人が依頼者(嘱託人)本人と直接面接することが求められていることからすると、これらの書面の作成にあたってウェブ会議の利用を認めてよいかは慎重な判断が必要との意見もみられるところです。したがって、遺言や任意後見契約書に関しては、これまでと同様、対面での手続きが原則となるのではないかと考えられます。もっとも、対面で作成する場合も、公正証書の原本は電子データで作成、保存されることになります。
執筆者プロフィール
弁護士 杉山 苑子