民事信託を利用するまでの流れ
民事信託を利用しようと思ったとき、誰に相談し、どのような流れで利用が始まるのでしょうか。
今回は民事信託を利用するまでの流れをみていきましょう。
〇 民事信託が利用されるケース
民事信託は財産管理・財産承継のための制度です。類似する制度として、法定後見や任意後見、遺言などがありますが、どのような事案が民事信託に適しているのでしょうか。
民事信託が利用されているケースをいくつか紹介します。
1 借り入れや資産活用を予定している場合
後見制度(特に、裁判所が後見人を選任する法定後見)では新規の借り入れや積極的な資産活用は難しいといわれています。そこで、元気なうちに信託を利用して、収益不動産であるアパートや株式などの有価証券を受託者に託してしまい、財産管理を任された受託者において、借り入れや資産活用を行うことが考えられます。
2 障害を持つ子がいる場合
障害を持つお子さんのために財産を残したいけれども、お子さんに相続人がおらず、残った財産があるのであれば、お子さんがお世話になった施設に寄付したいといった場合にも民事信託を利用することが考えられます。
親御さんが遺言を書くことでもお子さんに財産を残すことはできますが、お子さん自身が遺言を書くことができない場合、残った財産は国庫に渡ってしまうので、それを避けようと思うと民事信託の利用が検討されます。
〇 誰に相談するか
民事信託を利用する場合には信託契約書という契約書を作ることになります。一般の方が作成するのは難しいので、民事信託を取り扱っている弁護士などの法律の専門家に相談してください。
知り合いに専門家がいればよいのですが、いない場合には、弁護士会などに問い合わせていただくこともできます。また、未来のあかりのコンシェルジュサービスでも民事信託の相談に対応していますので、ご利用をご検討ください。
〇 民事信託利用までの流れ
通常は、何度か打ち合わせを行い、民事信託の利用が適しているか、他のサービスとも比較しながら検討を行います。受託者候補になるご家族が相談に来られることが多いのが実情ですが、財産管理を依頼する委託者ご本人のご意向も必ず確認します。その上で、専門家において委託者の意向を踏まえた契約書の文案を作成します。
ところで、民事信託では、通常、信託用の専用口座(信託口口座といいます)でお金を管理します。信託口口座を扱っている金融機関は限られており、また、開設にあたっては信託契約書の提出を求められることが一般的ですので、専門家において、金融機関に問い合わせをして、口座開設に応じてもらえるか確認をします。
また、金融機関からは、契約書を公正証書の形で作成するよう求められるのが一般的です。そこで、専門家が公証役場の公証人にも契約書の案文を送り、公正証書の作成を依頼します。信託財産の不動産が含まれている場合には登記手続きが必要ですので、司法書士との調整を行ったり、税務上の課題がある場合には税理士との調整を行うなど、契約書を作成する専門家において種々のコーディネート業務を行います。
このような調整を行い、準備が整うと、委託者・受託者が公証役場に出向き、信託契約書を作成します。
契約書が完成すると、受託者は事前に打ち合わせをした金融機関に出向き、信託口口座の開設手続きを行います。そして、委託者から託されたお金を、以後、信託口口座において管理します。また、不動産を信託する場合には受託者名義に変更する登記手続きを行います。
このようにして、民事信託が開始されます。
執筆者プロフィール
弁護士 杉山 苑子