障害年金とその他の手当等の調整について
障害年金を受け取ることでほかの手当等が調整されることがあります。
制度が違うと調整の仕方も違ってきます。
今回は、
1.雇用保険の基本手当との調整
2.健康保険の傷病手当金との調整
3.生活保護との調整
についてお伝えします。
1. 雇用保険の基本手当との調整
基本手当とは、雇用保険の被保険者が失業後、次の就職先を見つけるまでの間の所得補償です。(失業保険と呼ばれることもあります)
基本手当の所定給付日数(基本手当の支給を受けることができる日数)は、受給資格に係る離職の日における年齢、雇用保険の被保険者であった期間及び離職の理由などによって決定され、90日~360日の間でそれぞれ決められます。
障害年金の受給者が退職して雇用保険法の失業の要件に該当する場合は、障害年金を受給しながら基本手当を受給することができます。ただし、基本手当は、働く意思があり、就労が可能な人に支給されるものなので病気により働くことができない場合、そもそも同時にもらうことは難しいと考えられます。
例えば、
- 人工股関節のため障害厚生年金3級を受給中の方が失業し、基本手当を受給する。
- 精神遅滞のため障害基礎年金2級を受給中の方が失業し、基本手当を受給する。
⇒いずれの例も働く意思のある方は併給されます。
2.健康保険の傷病手当金との調整
傷病手当金とは、病気休業中に健康保険の被保険者とその家族の生活を保障するために設けられた制度で、被保険者が病気やケガのために会社を休み、事業主から十分な報酬が受けられない場合に支給されます。
傷病手当金が支給される期間は、令和4年1月1日より、支給を開始した日から通算して1年6ヵ月となりました(ただし、支給を開始した日が令和2年7月1日以前の場合には、これまでどおり支給を開始した日から最長1年6ヵ月です)。
障害厚生年金を受給中の方が、同一傷病により健康保険法の傷病手当金を受給できるときは、障害厚生年金が優先され、傷病手当金は支給停止となります。ただし、障害厚生年金の額(同時に障害基礎年金を受けられるときはその合計額)の360分の1が傷病手当金の日額より低いときは、その差額が支給されます。
① 傷病手当金が障害年金等の日額換算額よりも多い場合
傷病手当金の日額と障害厚生年金の額(注)を360で割った額(1円未満は切り捨て)
とを比較して、傷病手当金の金額の方が多ければ、その差額が傷病手当金として支給されます。
(例)傷病手当金日額6,000円、障害厚生年金額180万円(180万円÷360=5,000円)
傷病手当金 6,000円 > 障害厚生年金 5,000円 差額1,000円
②傷病手当金が障害年金等の日額換算額よりも少ない場合
傷病手当金の日額と障害厚生年金の額(注)を360で割った額(1円未満は切り捨て)
とを比較して、障害厚生年金の金額の方が多ければ、傷病手当金の支給はされません。
(例)傷病手当金日額4,000円、老齢厚生年金額180万円(180万円÷360=5,000円)
傷病手当金 4,000円 < 障害厚生年金 5,000円
(注)同一の傷病により、障害厚生年金と、障害基礎年金の両方を受給することができるときは、その合算額
障害年金と傷病手当金の調整は、あくまで同一傷病の場合です。障害厚生年金を受給している傷病と傷病手当金を受給している傷病が別であれば調整なく両方受給できます。
例えば、
発達障害で障害厚生年金を受給している方が、骨折をして会社を休んでいる場合に受けている傷病手当金と障害厚生年金の調整
⇒調整なし。両方受給できます。
また、障害基礎年金のみを受給している場合は、給付の原因が同じ(同一傷病とみなされる)であっても両方受給できます。
例えば、
精神遅滞及びうつ病で障害基礎年金2級のみを受給している方が、うつ病の再発により会社を休職している場合に受けている傷病手当金と障害基礎年金2級の調整
⇒調整ない。両方受給できます。
3.生活保護との調整
生活保護はほかの制度から給付を受けられる場合は、ほかの制度が優先され、その給付は収入とみなされます。障害年金が生活保護費を上回った場合を除き、生活保護費から支給された障害年金を引いた差額分が生活保護費として支給されることになります。
執筆者プロフィール
社会保険労務士 二階堂 麻衣子