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お知らせ・コラム

数字でみる民事信託

2022.04.01

コラム

数字でみる民事信託

民事信託は財産管理と財産承継を目的とする制度であり、財産管理という側面で後見制度と類似する面があります。そのため、最近は、これまで後見制度の支援に携わってきた福祉関係者からも民事信託への関心が寄せられるようになってきています。では、現在、民事信託はどのくらい利用されているのでしょうか。

今回は、民事信託の利用件数などをみてみましょう。

〇 民事信託の利用形式

民事信託の多くは、委託者(財産を託す人)と受託者(託された財産を管理する人)との間で信託契約を締結する方法によって利用されています(契約以外の方法として、委託者単独で作成する遺言信託などがあります)。信託契約の形式に縛りはなく、法律上は口頭での合意による成立も認められています。ただ、信託の内容を客観的に明らかにするために、通常は、信託契約書という書面を作成します。

書面の形式は、作成者である委託者と受託者が署名押印をして契約書を作成する方法(私署証書)でも可能ですが、公証人(元裁判官などの法律の専門家)に契約書の作成を依頼する方法(公正証書)で作成されることが望ましいとされています。

民事信託を利用すると、預かった金銭を管理するための専用の預金口座を開設することが通常ですが、口座開設にあたり、金融機関から「公正証書で作成した」信託契約書の提示を求められることが多いからです。

公正証書は公証役場で作成することができ、愛知県内には11か所の公証役場があります。条件を満たせば出張対応も可能です。

〇 民事信託の利用件数

民事信託は、上記のとおり、個人間の契約書でも作成できることから、民事信託の総数を調べることはできません。しかし、公正証書で作成したものについては、平成30年以降の統計があります。

平成30年 2223件

令和元年  2974件

令和2年  2924件

令和3年  1323件

*令和3年は1~6月
(金子順一「公証役場からみた民事信託」家庭と法の裁判No.35・24頁)

このことから、民事信託に関する公正証書は概ね年間3000件作成されていることがわかります。令和2年の遺言公正証書の作成件数が9万7700件、任意後見契約締結件数が1万1717件ですから、遺言や任意後見と比べるとまだ少ない数字ですが、一定の需要が見て取れます。

〇 民事信託の利用目的

では、民事信託はどのような目的で利用されているのでしょうか。

ある信託銀行の調査によれば、高齢者等、自ら適切に財産管理を行うことができない人のために財産管理と生活支援を行うことを目的とする福祉目的の信託が最も多く利用されていると報告されています。利用される民事信託の97%は後見補完・代替(適切に財産管理を行うことができない人に代わって財産管理を行う)であり、また、87%は遺言代替(代用)(信託終了時の財産の分配先が定められている)です。

(八谷博喜「金融機関における民事信託-各種信託商品、信託口口座の設計-」家庭と法の裁判No.35・32頁)

このことから、民事信託は、高齢者や障がい者など、自らでは財産管理が難しい人のために、後見に代わる手段として利用され、また、信託終了時の最終的な財産の帰属先を定める形で、遺言に代わる手段として利用されていることが分かります。もっとも、後見に代わる手段といっても、信託契約時点では委託者の判断能力が必要となります。後見に代わるというのは、信託契約締結後に委託者の判断能力が低下したとしても受託者による財産管理を継続することができる、あるいは、将来、後順位の受益者(例えば障がいをお持ちのお子様)のために財産管理が行うことができるという意味であり、委託者の判断能力が失われてしまった状態で民事信託を始めることはできません。

民事信託は、当初は首都圏での利用が中心でしたが、年々首都圏以外の地域での利用も伸びてきているようです。後見、遺言等の制度に並ぶ選択肢の1つとして民事信託の認知度が広まってきています。

 

執筆者プロフィール

弁護士 杉山 苑子

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