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「信託」と名のつく制度の比較

2022.02.01

コラム

「信託」と名のつく制度の比較

高齢者や障がい者の財産管理・財産承継に関する制度として、色々な場面で「信託」という言葉が使われています。「民事信託」、「家族信託」、「遺言信託」など、いずれも「信託」という文言が含まれていますが、制度の内容が異なったり、中には、法律的な意味での信託ではない使われ方もされています。

今回は、「信託」と名のつく制度を比較してみましょう。

 

〇 民事信託・家族信託

民事信託は、親族による財産管理・財産承継のための制度であり、信頼できる親族などに自分の財産を託し、その親族において預かった財産を管理し、次世代以降に承継させることを目的とするものです。

「親族」が財産を管理するという点に特徴があり、高齢者の特殊詐欺・認知症予防対策として、また、障がいのお子様がいる家庭において、親亡き後の課題を解決する手段としても注目されています。

民事信託は、家族信託と呼ばれることもあります。両者は、ほぼ同じ意味で使われていると考えられます。

 

〇 特定贈与信託

特定贈与信託は、障がいをお持ちの方の生活の安定を図ることを目的に、親族などが信託銀行等に金銭等の財産を預け、信託銀行等がその財産を管理する信託です。

この信託が利用できるのは、信託財産から利益を受ける人=受益者が障がい者である場合です。

特定贈与信託は、信託銀行等が提供している信託商品の一種です。
信託商品といっても、投資信託など資産運用を目的とするものではなく、障がい者の生活の安定に資することを目的とする福祉的な商品ということになります。民事信託は「親族」が財産を管理する制度ですが、特定贈与信託は「信託銀行等」が財産を管理します。

 

〇 後見制度支援信託

後見制度支援信託は、本人に一定額以上の資産がある場合に、日常生活で通常使用しない金銭を信託銀行等に預けてしまい、家庭裁判所の関与のもとで財産管理を行う制度です。「信託銀行等」が財産を管理するという意味では、先の特定贈与信託と同様ですが、利用場面は「成年後見」が使われている場合に限られます。

この信託は、後見人の不祥事防止のために導入されたという特徴があります。

先の2つの制度は、いずれも、財産を託す人(委託者)が親族や信託銀行による財産管理を希望して初めて利用されるものですが、後見制度支援信託は、財産を託す人(被後見人)が既に判断能力を失っているために、一般的には家庭裁判所の要請により、後見人が利用を検討します。ご本人の判断能力喪失後に事後的に利用される制度であり、ご本人が元気なうちに将来に備える「民事信託」とは全く別の制度です。

 

〇 遺言信託

遺言信託という言葉は、多義的です。

一般的には、信託銀行等が提供する商品の一種であり、遺言書作成の相談から、遺言書の保管、そして遺言書の執行まで相続に関する手続きをサポートするサービスを指します。

信託という名が入っていますが、実は、法律的な意味での信託ではありません。信託銀行がご本人の財産を管理しているわけではないからです。

他方、民事信託の場面で遺言信託という表現を使う場合があります。
民事信託は、財産を託す人(委託者)と財産管理をする人(受託者)との間の契約(信託契約)によって、委託者の生前から開始されることが一般的ですが、そうではなく、遺言書を作成し、自分の死後に財産管理をスタートさせることも可能です。後者の形式を遺言信託と呼び(遺言による信託ともいいます)、これは信託の一種です。遺言書に書かれた内容に沿って受託者が財産を管理することになるからです。

 

このように、信託という言葉は様々な使われ方をしています。それぞれの制度について、何を目的とする制度なのか、どのような内容なのかを確認することが大切です。

 

執筆者プロフィール

弁護士 杉山 苑子

 

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