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お知らせ・コラム

民事信託と税金

2021.12.01

コラム

民事信託と税金

民事信託を利用すると、委託者の財産は受託者に移ります。

例えば、委託者Aが不動産(自宅など)を信託すると、名義は受託者Bに変わり、Bが不動産の所有者となります。このときの税金関係はどうなるでしょうか。
Bは無償で不動産の所有者となったわけですから、AからBに不動産が贈与されたとしてBは贈与税を払わなければならないのでしょうか?

 

今回は、民事信託と税金の関係を見ていきましょう。

民事信託の利用形式

民事信託には3種類の当事者が登場します。
▼財産を託す「委託者
▼託された財産を管理する「受託者
▼信託財産から利益を得る「受益者」です。

3者はすべて別人とすることもできますし(パターン①)、
一部同一人物が兼ねることも可能です(パターン②、パターン③)。

パターン①

委託者A --- 受託者B --- 受益者C

 

パターン② 委託者=受益者

委託者A --- 受託者B --- 受益者A

 

パターン③ 委託者=受託者

委託者A --- 受託者A --- 受益者C

 

このように、民事信託の利用形式としては3通り考えられるわけですが、実際に利用されているのは、圧倒的にパターン②、すなわち、委託者と受益者が同一人物で信託がスタートする形です。

 

信託税制の考え方

なぜパターン②が選択されるのでしょうか。
それは、信託に対する課税の考え方が強く影響しています。

信託によって実際に経済的な利得を得るのは、受益者です。
受託者は、信託財産の名義人にはなるものの、「受益者」のために信託財産を管理・処分する義務を負い、その事務を行うために名義を取得しているに過ぎません。

このことから、受託者は「形式上の所有者」、受益者は「実質上の所有者」と呼ばれることがあります。

そして、税金は、経済的な実質に着目して課税されます。
そのため、信託に対する課税は、原則として「受益者」に着目して課せられるという考え方が取られています。

冒頭の例でいえば、委託者Aから受託者Bに名義は変更されますが、Bは形式上の所有者に過ぎませんから、Bが贈与税の負担を負うということにはなりません。

他方、受益者に対する課税は、場合分けをして考えます。
委託者A=受益者A(つまりパターン②)の場合、元の財産の持ち主=委託者Aと、その財産から利益を得る人=受益者Aが同一人物ですので、信託の利用前後で経済的価値は移動しません。そのため、信託開始時に課税関係は生じません。

これに対し、委託者A≠受益者C(つまりパターン①またはパターン③)の場合は、委託者Aから受益者Cに経済的価値が移動していますから、Cには贈与税が課税されることになります。
このように、パターン①またはパターン③の場合は、信託の利用を開始した時点で受益者に贈与税がかかってしまうことになります。
多くの事案でパターン②が選択されているのは、贈与税が意識されているためです。

 

具体例の検討

信託税制の考え方を踏まえて、具体例を検討してみましょう。

父Aが、障害のある子Dの将来の生活の安定を考えて、Dの妹BにAの財産を託し、管理してもらうことを考えたとします。

この事例で民事信託の利用を検討した場合、
まず、父A=委託者、子Dの妹B=受託者、子D=受益者とすることが考えられます。
しかし、これはパターン①の形式ですから、信託の開始によって受益者Dに贈与税がかかってしまいます。

委託者A --- 受託者B --- 受益者D

そこで、このような事例の場合、通常は、信託のスタート時の受益者は父Aとし、パターン②の形式を取るようにしています。そして、父Aが死亡した時点で、受益者をDに変更します。

委託者A --- 受託者B --- 当初受益者A --- 第二次受益者D

この場合、信託のスタート時は、委託者A=当初受益者Aですので、課税関係は生じません。
次に、受益者がDに変更された時点ですが、ここでは実質的な財産所有者であったAからDに経済的利益が移転したと考えられ、課税関係が生じます。もっとも、Aの死亡に基因してDが受益者となった場合には、贈与税ではなく相続税の負担にとどまります。

 

このように、民事信託を利用する場合には税金の関係についても念頭に置く必要があります。

 

 

 

執筆者プロフィール

弁護士 杉山 苑子

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