福祉型の信託商品
これまでこのコラムでは、家族など信頼できる身近な人が受託者となる信託(民事信託)を紹介してきました。しかし、信頼できる家族が高齢、多忙、遠方に住んでいる場合や、そもそも財産管理を委ねられるような親族がいない場合には、適切な受託者が見つからないということになります。
信託銀行等が販売している信託商品の中には、障がいのある子のための信託など、福祉目的の商品があります。身近に民事信託の受託者をお願いできる人がいない場合には、このような信託商品の活用も選択肢となります。
これから紹介するのは、いずれも信託銀行等が受託者となる信託商品です。
〇 特定贈与信託
特定贈与信託は、障がいのある方の生活の安定を図ることを目的に、親族の方などが信託銀行等に金銭等の財産を預け、信託銀行等がその財産を管理する信託です。この信託が利用できるのは、信託財産から利益を受ける人=受益者が障がい者である場合です。
例えば、父親が障がいのある子のために一定の金銭を信託銀行に託します。信託銀行は、毎月、一定額の生活費を子に給付します。そして、子が亡くなった場合には、あらかじめ指定しておいた相続人や慈善団体等に残金を交付します。
特定贈与信託の大きな特徴は、一定額まで贈与税が非課税となる点です。通常の信託の場合、財産を託す人=委託者(上記の例では父親)と信託財産から利益を受ける人=受益者(上記の例では子)が異なる場合、委託者から受益者に財産が贈与されたものと見なされ、子に贈与税が課税されることになります。しかし、特定贈与信託として利用する場合、子が特別障がい者(例えば、重度の知的障がい者)の場合には6000万円まで、特定障がい者(例えば、知的障がい者)の場合には3000万円まで非課税とされるため、父親の生前に、将来の子の生活の安定を見据えた財産管理を信託銀行に委ねることができます。
〇 生命保険信託
生命保険信託は、生命保険と信託を組み合わせた商品です。通常の生命保険は、本人が亡くなると、あらかじめ指定された親族に一括して生命保険金が支払われます。これに対し、生命保険信託を利用した場合、生命保険金は信託銀行に支払われ、信託銀行は、あらかじめ定められた方法でその財産を管理します。
例えば、父親は生命保険会社との間で生命保険契約を結び、保険金の受取人を信託銀行とします。保険金を受け取った信託銀行は、母親が生存している間は、母親に対して毎月一定額の生活費を支払い、母親が亡くなった後は、子に対して毎月一定額の生活費を支払います。子が亡くなった場合に残金が残った場合には、あらかじめ指定しておいた相続人や慈善団体等に残金を交付します。
生命保険信託は、特定贈与信託とは異なり、障がい者以外の方も受益者として指定することができます。一度にまとまった生命保険金を交付するのではなく、分割して交付するのが望ましい場合や、先順位の受益者が亡くなった場合に次順位の受益者に金銭を交付したいという要望がある場合に利用されています。
〇 後見制度支援信託
成年後見制度を勉強されている方は、後見制度支援信託という言葉を耳にしたことがあるかもしれません。これも、信託銀行等を受託者とする信託の一種です。後見制度支援信託は、成年後見が利用されている場合のみ使われる信託で、本人に多額の資産がある場合に、日常生活で通常使用しない金銭を信託銀行等に預けてしまい、家庭裁判所の関与のもとで財産管理を行う制度です。後見人の不祥事防止目的で平成24年に導入されました。
後見制度支援信託は、すでに判断能力を喪失した本人の財産を守るために作られた信託商品であり、上記の特定贈与信託や生命保険信託とは利用場面が異なります。特定贈与信託や生命保険信託は、本人(=委託者)に判断能力がある場合でないと利用できませんので注意してください。
毎月、親亡きあと、親の支援なきあとのコラムについて更新しています。
来月は障害年金に関するコラムを掲載予定です。
執筆者プロフィール
弁護士 杉山 苑子